小坂忠が1968年に「ザ・フローラル」というバンドのヴォーカルとしてデビューした頃、日本にはまだ確たるロックシーンは存在していなかった。
加熱するGSブームの渦中に売り出されたザ・フローラルだったが、1967年から始まったグループサウンズの全盛期は短く、翌年には早くも下降気味になってしまった。
そこでブルース・ロック志向を打ち出したザ・フローラルは、新メンバーに細野晴臣と松本隆を迎え入れている。(注)
そして英語の歌詞でオリジナル曲をうたうバンド、「エイプリル・フール」となったのである。
ところがサイケデリック・ロックへの指向性を強める柳田ヒロと、新メンバーに加わった細野晴臣の音楽性がうまく噛み合わなかったことから、デビュー・アルバムを作ったまでは良かったが、発売と同時にバンドは解散という結果になってしまう。
細野晴臣が当時の心境をこう語っている。
当時、僕はサイケバンドも聴いていたけど、シンガー・ソングライターのローラ・ニーロとかも没頭して聴いていたのね。
でも、柳田ヒロがローラ・ニーロは好きじゃないって言うんで、一緒にはできないと思って、エイプリル・フールは一年だけやって解散した。
その後、小坂忠と松本(隆)と、日本語でオリジナルやろうと思ってたんだけど。
忠がミュージカルの『ヘアー』に出るっていうんで抜けちゃって、松本とどうしようって。
それで大瀧や茂とはっぴいえんどを結成することになるわけだ。
こうしてローラ・ニーロを好きかどうかが、あたかも踏み絵のようになって新しいバンドが出来かかっていた。
ところがそこに世界で注目を集めていたロック・ミュージカル『ヘアー』が、1969年12月に日本で上演されるという話しが持ち込まれたのだ。
主演に選ばれて小坂忠がバンドを抜けたことによって、結果的には大瀧詠一が加入することになって、はっぴいえんどが誕生することになる。
松本隆はその頃、「エイプリル・フールが解散したら、次は日本語でやらせてくれ」と、細野晴臣に対して毎日のように言っていたという。
その後、小坂忠はアルバム『ありがとう』を1971年に発表して、本格的にソロ活動を始めていく。
また、レコーディングの仲間だった松任谷正隆、後藤次利、駒沢裕城、林立夫とともに「小坂忠とフォージョー・ハーフ」を結成している。
フォージョーハーフとは日本語の「四畳半」から付けられた、いかにも70年代前半らしい和洋折衷のバンド名だ。
それから3年が過ぎてフォージョーハーフを解散した小坂忠は、はっぴいえんど解散後に細野晴臣が鈴木茂、林立夫、松任谷正隆と結成したティン・パン・アレーの演奏で、1975年1月にアルバム『HORO』を発表している。
このアルバムは日本のR&B、ソウル・ミュージックの元祖として、数多くのミュージシャンに影響を与えることになった。
『HORO』はハード・ボイルド小説的な味わいを随所に感じさせるが、若い割には渋みがあってソウルフルな小坂忠のヴォーカルを中心に、細野晴臣、鈴木茂、松任谷正隆、林立夫といったティン・パン・アレーのメンバーと鈴木(矢野)顕子による演奏、吉田美奈子や大貫妙子、山下達郎のコーラス、そして矢野誠のストリングス&ホーン・アレンジという総合力の賜物である。
今から見れば、後に日本のロック/ポップス界に名を残す大御所ばかりだったが、当時はまだみんな若手で一部にしか名を知られていないミュージシャン、バンドマン、シンガー・ソングライターたちだった。
松本隆と細野晴臣のソングライティングによる「しらけちまうぜ」は、これまでにないタイプの歌で小坂忠の代表作となった。
そこにはアルバムのエッセンスが、くっきりと凝縮されていた。
都会風に気取っているのに嫌味がなく、必要以上にカッコつけているわけでもない。
ハードボイルドを気取って強がってはいるが、深刻ぶってはいるわけでもない。
外見と中身が一致していて、意外なほど自然体だった。
僕はソロ・アーティストとして、『ありがとう』というアルバムからスタートしているんですけれども、その『ありがとう』から『ほうろう』までの間っていうのは、ずっと自分のヴォーカル・スタイルを模索しながらやっていた感じなんですよ。
アルバムを作った小坂忠はこの『HORO』で自分のスタイルが決まり、ここから本格的に出発するぞという意識を持てたという。
『HORO』のレコーディング・メンバーで行った「ファースト&ラスト・ツアー」は、4月4日の福岡・電気ホールから始まり、7月3日の東京・郵便貯金ホールで終了した。
しかし、小坂忠はその年に起きた娘の交通事故をきっかけにクリスチャンとなって、やがて教会でゴスペルを歌う道へと歩んでいく。
(注)(「GSのザ・フローラルからエイプリル・フールを経てはっぴいえんどへ至る道」)
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畠山美由紀 with 高木大丈夫(ギター)
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