どんとがハワイで37歳の若さで急逝したのは、2000年の1月28日(日本時間)のことだった。
忌野清志郎はレギュラーで書いていた雑誌に、こんな追悼文を寄せている。(注1)
雰囲気のあるいい奴だった。
俺の音楽の理解者だった。
もっとたくさん会えば良かったが今はもう遠い。
今年も年賀状が届いたばかりだというのに…。
さようなら、どんと。安らかに眠ってくれ。
僕はこの月の砂漠で昔のことを想い出しては笑ったり、時には涙を流したりする。
ひとりぼっちとはいえ、なかなか人生は忙しいもんだ。
どんとは高校時代から、RCサクセションのレコードは全部集めていた。
何度もライブを見に行って服装も唄い方も清志郎をまねて、作る歌も清志郎にそっくりだったという。
「おまえのその清志郎ぶし何とかしろ」と言って仲間たちがやめさせるほど、どんとには清志郎一色になった時期があったのだ。
自分のそんな過去をどんとが思い出したのはボ・ガンボスを解散してソロになり、日本の音楽業界からは一線を画して、家族と一緒に沖縄にわたって一人だけで活動を始めていた1995年頃のことだ。
そのことを書き記した、こんな文章が残っている。(注2)
海で遊んで家へ帰るとケーブルテレビで忌野清志郎のコンサートをやっていたので、友達とワイワイ騒ぎながら見てたら、自分も子供たちをステージに出して楽しそうに歌っていた。
前はお客のことをさんざん悪口を言って胸をもんだりパンツに手を入れたり「ブスは帰れ」といっていたのに、今ではお客さんに優しくなって「変わったなあ」なんて見てたら急に初期の『わかってもらえるさ」を歌い始めて俺は急に想い出した。
「これ大好きだった!」そうだ俺の人生は清志郎一色だったのだ!
ひとたび素晴らしいバンドやミュージシャンに出会ったならば、その音楽を全身全霊で体感して、吸収できるものはすべて残らず、自分のものにするまで熱愛する。それがどんとにとって、音楽との真剣なつきあい方だった。
ボブ・ディランやビートルズのときがそうだったように、どんとはフォーク時代の忌野清志郎に入れ込んだ。
その後、パンク/ニューウェーブの洗礼を受けて、清志郎一色から脱して影響されたのが村八分ということになる。
久しぶりに清志郎にはまっていた頃にタイムスリップしたどんとは、十代の頃の想い出が次々と出てきて、万華鏡のように歌が輝いて聞こえたという。
翌日すぐに那覇の国際通りにあったベスト電器に行くと、どんとはRCサクセションの2枚目のアルバム『楽しい夕べに』と、初期のベスト・アルバムをCDで買って帰った。そして再び、大ファンに戻ってしまったのだった。
二人が初めて会ったのは同じステージに立ったイベントで共演する際に、どんとが清志郎の楽屋に会いに行ったからだった。だがお互いに人見知りゆえ、話はあまり弾まなかった。(注3)
二人とも照れて話すことがなく、黙って数秒たってから清志郎が「ギター見る?」と言って新しく買ったギターをさわらせてくれた。
おれは少し触ってすぐ返して、また照れながら自分の出番になったので、ステージに行った。
おれは歌の中の清志郎と同じだと思った。
彼の『ヒッピーに捧ぐ』という唄の中に、死んだヒッピーに「明日また楽屋で会おう。新しいギターを見せてあげる」という一節があったのを思い出したからだ。
生前のどんとを偲んで一年に一度開催されてきた『soul of どんと』だが、2006年には7回忌を記念してNHKホールで、紅白歌合戦という趣向になった。
白組のトリを務めたの忌野清志郎は、 1997年にどんとが発表したソロ・アルバム『DEEP SOUTH』から「孤独な詩人」をマント・ショーで披露した。
そして何度も何度も最後の歌詞、「星になったのさ」をくり返して、「あいつは星になったのさ」、「どんとは星になったのさ」と、精一杯に歌ってくれた。
会場で見ている者にとって、そのパフォーマンスは他人事ではないという鬼気迫るものがあった。
「孤独な詩人」 作詞・作曲 どんと
何処へ歩いていくのでしょう
ひとりぼっちで ギターを弾くよ
雨に打たれて 花のうたを
声にならない 虫のうたを
明日は 空も 晴れてくれるさ
そして 目を開けたら 舞台の上
フラリ倒れて 友達や仲間たち
ボンヤリ浮かんで消えた
星になったのさ 星になったのさ
それからわずか3年後、忌野清志郎もまた星になったのだった。
(注1)「TV Bros」3月4日号 ”瀕死の双六問屋”よりの引用です。
(注2)(注3)は、情報雑誌「おきなわJOHO」連載「どんとのどんと焼」からの引用です。
*本コラムは2015年2月2日に初出公開されました。
↓↓↓デビュー25周年記念(2015年)「ボ・ガンボス特集」はこちら
おまけ
RCサクセション w/ボ・ガンボス、JUN SKY WALKER(S)「雨上がりの夜空に」 at 仙台・ロックンロールオリンピック 1990年8月
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