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Channel: 佐藤 剛 – TAP the POP
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西城秀樹に『∀ガンダム』の主題歌「ターンAターン」を作った小林亜星との出会いは『寺内貫太郎一家』

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1999年から2000年にかけて放送されたフジテレビ系アニメ『∀(ターンエー)ガンダム』で、ストーリー前半のオープニング主題歌「ターンAターン」を歌ったのは西城秀樹だった。

監督の富野由悠季が井荻麟のペンネームで作詞したこの曲は、CMソングの「レナウン・ワンサカ娘」や「日立グループ・この木なんの木」、テレビアニメの「魔法使いサリー」、「ひみつのアッコちゃん」、「狼少年ケン」、「ユカイツーカイ怪物くん」でも知られる小林亜星が作曲した。

「ターンAターン」を歌うことになったきっかけは四半世紀前、二人が共演した人気テレビドラマ『寺内貫太郎一家』が、1999年2月に東京の新橋演舞場で舞台化されたことに端を発している。

そもそもの出会いは1974年のTBS水曜劇場のドラマ『寺内貫太郎一家』のなかで、親子の役で初共演したときにまでさかのぼる。

西城秀樹は1972年3月25日、ビクター音楽産業のRCAレーベルから、”ワイルドな17歳”のキャッチフレーズで、「恋する季節」で歌手としてデビューした。

それに少し遅れてジャニーズ事務所の郷ひろみが8月1日、「男の子女の子」でCBSソニーからデビューしたことで、先行していた野口五郎と西城秀樹の3人で「新御三家」と呼ばれた。

そこから全員がヒット曲に恵まれて、芸能界ではトップアイドルという扱いになった。


1973年6月25日にオリコン・チャートで「情熱の嵐」が初のベストテン入りを果たして勢いづいた西城秀樹は、続く「ちぎれた愛」と「愛の十字架」がともにオリコン・チャート1位を獲得した。


そんな人気絶頂時の1974年1月に始まったのが、東京の下町を舞台にしたテレビドラマ『寺内貫太郎一家』だった。
台東区の谷中にある石屋「寺内石材店」を中心に、三代目の職人である寺内貫太郎一家や職人さん、近隣の人々とのふれあいが描かれている。

原案と脚本は向田邦子、演出とプロデュースが久世光彦、平均視聴率31.3%を獲得したほか、その斬新な内容で1974年第7回テレビ大賞を受賞した。

登場人物は貫太郎を支える妻の里子(加藤治子)、沢田研二のポスターの前で身悶えながら「ジュリ~!」と叫ぶ母のきん(樹木希林)、父の仕事場で起きた事故で足が不自由になった長女の静江(梶芽衣子)、静江の恋人で妻と別れたばかりの上条(藤竜也)、住み込みのお手伝い相馬美代子(浅田美代子)、それに石工職人の岩さん・タメさん(伴淳三郎・左とん平)など多彩な顔ぶれだった。

着流し姿のヤクザくずれを演じたイラストレーターの横尾忠則、越路吹雪のプロデューサーだった東芝レコードの渋谷森久など、演技の素人が平気で登場するユニークな演出も話題になった。

久世光彦に抜擢された小林亜星もまったくの素人だったが、巨漢であることと同時に、ほんものの表現者だけが持っている存在感によって主役を演じた。

昔気質で頑固で短気、しかもシャイで口下手という設定だから、貫太郎は家族にも手が先に出て、親子喧嘩になってしまう。
体重が110キロを超える巨漢の小林亜星の相手役として共演した西城秀樹の出演シーンは、取っ組み合いの喧嘩が名物となった。

何かの拍子に言い争いが始めるとその場で立ち上がった両者がもみ合いになり、タンスは壊す、障子を突き破る、壁にぶつかれば額が落ちてくる、庭に投げ飛ばされるという激しいアクションが繰り広げられた。



そこに巻き込まれた家族が、喧嘩の合間にも細かなギャグを見せるという、それまでにない破天荒なホームドラマは、高視聴率だったことで1975年に続編の『寺内貫太郎一家2』が作られている。
打ち身や擦り傷は日常茶飯事の西城秀樹だったが、続編の初回に小林亜星に投げ飛ばされたとき、右腕を骨折する怪我を負うアクシデントが起こった。

そうした共演から四半世紀を経て、小林亜星は本来の音楽というフィールドで、西城秀樹に歌ってもらうためにベストをつくして曲をつくったのである。

その話を切り出されたときのことを、西城秀樹がこのように語っていた。

舞台をはじめる直前、食事をしているときに「ガンダムの主題歌をやってくれないか?」と。
そのときは、まだ曲も完成していないし、僕自身、「ガンダム」という作品を知っていたが観たことはなかった。
それで映画版の最初の「ガンダム」を観て、「メッセージ性の強い、ヒューマンな話だな」と思いまして、やらせていただくことに。
(『∀ガンダム フィルムブック[1]』角川書店)


しかし詞をはじめて見せてもらってテーマが大きな愛だということがわかっても、「ターンAターン」という言葉が西城秀樹にはどこかしら、きちんと理解できていないところがあったという。

それで録音のときに富野監督に聞いたら、2時間かけて話してくれましてね(笑)。
とっても熱くて、純粋な方です、監督は。
監督のおっしゃった「ターンAターン」っていうのは、簡単に言うと「人は生まれ変わる。生きて死んで、それを繰り返すことによって自分の首を締めている現代というものがある。だが、そうではなく最初に戻るんだ」とのことでした。
人間のあるべき姿、道徳の標準や基準というものを話されて「それを忘れてはいけない、新しいことをやるのではなく、それがターンAターンなのだ。繰り返すことによって人間の心の中にヒューマンが生まれる。人間の進歩になるものだ。新しいものに媚を売るのではなく、今の時代に基本をきちんとやることが新しい。みんなが憧れているもの、望んでいるものは、そういう愛ではないか」とも。
(同上)


こうして富野監督の言葉を理解したことで、本番のレコーディングが行われた。



小林亜星は2018年5月の読売新聞で、このような胸の内を吐露していた。
それは西城秀樹の訃報が流れた直後のことだった。

彼は完璧に理解して、完璧に歌ってくれた。
音楽を通じて理解し合いました。
僕が作ったアニメの曲では一番だと思う。







(注)本コラムは2018年5月18日に公開されました。

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