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Channel: 佐藤 剛 – TAP the POP
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追悼・西城秀樹~『∀ガンダム』の主題歌「ターンAターン」を作った小林亜星との出会いは『寺内貫太郎一家』

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1999年から2000年にかけて放送されたフジテレビ系アニメ『∀(ターンエー)ガンダム』で、ストーリー前半のオープニング主題歌「ターンAターン」を歌ったのは西城秀樹だった。
監督の富野由悠季が井荻麟のペンネームで作詞した「ターンAターン」は、CMソングの「レナウン・イエイエ」や「日立グループ・この木なんの木」「ファミリーマート」、「魔法使いサリー」「ひみつのアッコちゃん」「狼少年ケン」「ユカイツーカイ怪物くん」でも知られる小林亜星が作曲した。

それを歌うことになったきっかけは、四半世紀前に二人が共演したテレビドラマ『寺内貫太郎一家』が、1999年2月に舞台化されたことだった。
西城秀樹の言葉を引用する。

舞台をはじめる直前、食事をしているときに「ガンダムの主題歌をやってくれないか?」と。
そのときは、まだ曲も完成していないし、僕自身、「ガンダム」という作品を知っていたが観たことはなかった。
それで映画版の最初の「ガンダム」を観て、「メッセージ性の強い、ヒューマンな話だな」と思いまして、やらせていただくことに。
(『∀ガンダム フィルムブック[1]』角川書店)


しかし詞をはじめて見せてもらっても、詞のテーマが大きな愛だということはわかっても、「ターンAターン」という言葉が理解できなかったという。

それで録音のときに富野監督に聞いたら、2時間かけて話してくれましてね(笑)。
とっても熱くて、純粋な方です、監督は。
監督のおっしゃった「ターンAターン」っていうのは、簡単に言うと「人は生まれ変わる。生きて死んで、それを繰り返すことによって自分の首を締めている現代というものがある。だが、そうではなく最初に戻るんだ」とのことでした。
人間のあるべき姿、道徳の標準や基準というものを話されて「それを忘れてはいけない、新しいことをやるのではなく、それがターンAターンなのだ。繰り返すことによって人間の心の中にヒューマンが生まれる。人間の進歩になるものだ。新しいものに媚を売るのではなく、今の時代に基本をきちんとやることが新しい。みんなが憧れているもの、望んでいるものは、そういう愛ではないか」とも。
(同上)





こうして富野監督の言葉を理解し、レコーディングが行われたのだ。
小林亜星は西城秀樹に歌ってもらった「ターンAターン」について、訃報が流れた翌日、読売新聞の取材でこのように述べている。

彼は完璧に理解して、完璧に歌ってくれた。
音楽を通じて理解し合いました。
僕が作ったアニメの曲では一番だと思う。



このふたりの出会いは1974年のTBS水曜劇場のドラマ『寺内貫太郎一家』のなかで、取っ組み合いの喧嘩をする親子の役で共演したときにまでさかのぼる。

西城秀樹は1972年3月25日にビクター音楽産業のRCA)レーベルから、ワイルドな17歳のキャッチフレーズで、シングル「恋する季節」で歌手としてデビューした。
それに少し遅れてジャニーズ事務所の郷ひろみが8月1日に「男の子女の子」でCBSソニーからデビューすると、これがヒットして日本レコード大賞の新人賞に選ばれた。

芸能界で若手の男性歌手をアイドルと呼ぶようになったのは郷ひろみ以降のことで、先行していた野口五郎と西城秀樹の3人は翌年から「新御三家」と呼ばれて、トップアイドルという扱いになっていった。

西城秀樹は「情熱の嵐」が1973年6月25日にオリコン・チャートで初のベストテン入りを果たして勢いづくと、続く「ちぎれた愛」と「愛の十字架」がともにオリコン・チャート1位を獲得し、日本レコード大賞でも初の歌唱賞を受賞している。



そんな人気絶頂の1974年1月に始まったのが、東京の下町を舞台にしたテレビドラマ『寺内貫太郎一家』だ。
台東区の谷中にある石屋「寺内石材店」を中心に、三代目の職人である寺内貫太郎家族や近所の人々とのふれあいが描かれている。
脚本は向田邦子、演出とプロデューサーが久世光彦、平均視聴率31.3%を獲得したほか、その斬新な内容で1974年第7回テレビ大賞を受賞している。

主人公の貫太郎は昔気質で頑固で短気、しかもシャイで口下手だから、つい手が先に出て喧嘩になってしまう。
特に長男で現代っ子の周平(西城秀樹)とは、毎回のように家族を巻き込んで、取っ組み合いのシーンが演じられた。

登場人物は貫太郎を支える妻里子(加藤治子)、沢田研二のポスターの前で身悶えながら「ジュリ~!」と叫ぶの母きん(樹木希林)、父の仕事場で起きた事故で足が不自由になった長女の静江(梶芽衣子)、静江の恋人で妻と別れたばかりの上条(藤竜也)、住み込みのお手伝い相馬美代子(浅田美代子)、それに石工職人の岩さん・タメさん(伴淳三郎・左とん平)など多彩な顔ぶれで、「お茶の間スラプスティック」といわれたアクションをともなうコメディーの中に、家族や人生の悲哀も描かれたドラマだった。

異色の出演者は着流し姿のヤクザくずれを演じたイラストレーターの横尾忠則、越路吹雪のプロデューサーだった東芝レコードの渋谷森久など、演技の素人が数人出ているように、ユニークなものだった。
久世光彦に抜擢された作曲家の小林亜星もまったくの素人だったが、巨漢であることと同時にほんものの表現者だけが持っている存在感によって、主役に選ばれて好演した。

小林亜星の相手役として出演した西城秀樹の出演するシーンは、体重が110キロを超える巨漢の小林亜星と取っ組み合いの喧嘩が名物になっていった。
何かの拍子に言い争いが始めると両者が立ち上がってもみ合いになり、タンスは壊す、障子を突き破る、壁にぶつかれば額が落ちてくる、庭に投げ飛ばされるという、本気の激しいアクションが繰り広げられた。

そこに巻き込まれた家族もまた合間に細かなギャグを見せるという破天荒なホームドラマは、高視聴率で人気が高く1975年にも続編の『寺内貫太郎一家2』が作られた。
打ち身や擦り傷は日常茶飯事だったが、続編の初回に西城秀樹は左腕の骨折という事態になった。
それでも休まずギブスをつけて出演した。



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